言葉はアドリブ 【言葉は魔法・011】

星野廉

2020/12/13 08:27


 言葉は魔法。


 言葉はジャズ。

 言葉は即興。

 言葉はアドリブ。


 私のジャズ。


        *


 まず、ぽんとひとつの言葉を投げる、ほうる、はなつ。


 環。「たま」です。「たまき」と読み、ユニセックスネームとして用いられていますね。漢字の字面も綺麗だし、「たま・たまき」というやまとことばとしての読み方つまり音もきれい。 


 言葉は環。うむうむ。いいんじゃないですか。


        *


 円環。この言葉が頭に浮かびました。好きな言葉。好きだから出たのでしょう。『円環の変貌』というジョルジュ・プーレの本を思い出しました。内容はすっかり忘れてタイトルだけを覚えている本は多いです。これもそのひとつ。円環という形とイメージがどんどん変貌していくのだろうな、と推測します。プーレと言えば、新批評。新批評と言えば、ジュネーブ学派。思い出しました。つぎつぎと言葉が浮かびますが、小難しいことはきれいさっぱり忘れました。ただ懐かしいだけ。出てきてくれてありがとう。


円環の変貌 上巻(ジョルジュ・プーレ著)

国文社刊(73.4.25)。本書は、ルネサンス時代からクローデル、エリオットに至る作家を考察し、その時間と空間の重要性を新

www.kokubunsha.co.jp

 言葉は円環。ああ、なるほど。言えてますね。これで一本の記事が書けそう。


        *


 輪。円環はまあるい輪ですね。しかも環だから、ぐるりと輪をえがいてまわる感じ。輪っかということは中は穴があいているのかな。ドーナツや浮き輪みたいに? 環境の環。何かのまわりをめぐるイメージ。


 言葉は輪。そういうことですか。たしかにそうかも。いや、そのとおり。ちょっと逸れて、言葉は和、言葉は吾、言葉は我、言葉は吾と遊んでみる。音(おん)のしりとり、イメージのしりとり。しりとりは輪を作ること。まさにジャズであり、アドリブ。面白そう。今度遊んでみます。


        *


 輪廻。出ました。私の苦手な言葉。うさんくさくて、いかがわしいと感じるのは私がへそ曲がりだからでしょうね。べつに回してくれなくてもかまいせん。ハムスターのように回し車に乗り続けるのはごめんです。のー・さんきゅー。ブーっと「次に降ります」のブザーを鳴らす。おろしてください。


 言葉は輪廻。ああ、そうですか。次に行きましょう。


        *


 連鎖。輪からまんまるのイメージを除くと、つながりが見えてきます。つまり連鎖ですね。鎖は輪や環をつないでいったもの。視覚化すると、きれいなイメージですね。


 言葉は連鎖。すごく言えている。

 言葉は連鎖反応。連想ゲームそのままじゃないですか。

 言葉は化学反応。

 言葉はケミストリー。

 言葉はCHEMISTRY。違った個性の二人が音楽的化学反応を生み出すというコンセプトでしたね。言葉についても言えてるわ。それにしても、うっとりするハモリ。




 軌道修正します。


 言葉は連鎖。

 言葉は『存在の大いなる連鎖』。おお、出ました。学生時代に高山宏先生に教えていただいた名著。アーサー・O・ラヴジョイがウィキペディアでは英語バージョンしかないのはなぜ? 松岡正剛氏の「637夜」をぜひご一読ください。はまる人は、はまると思います。お薦めします。


筑摩書房 存在の大いなる連鎖 / アーサー・O・ラヴジョイ 著, 内藤 健二 著

筑摩書房のウェブサイト。新刊案内、書籍検索、各種の連載エッセイ、主催イベントや文学賞の案内。

www.chikumashobo.co.jp


 言葉は存在の大いなる連鎖。

 言葉は存在の連鎖。

 言葉は存在の鎖。

 言葉は鎖。

 言葉は腐れ縁。


 わけが分からなくなってきたので。仕切り直します。


 言葉は連鎖。鎖。

 言葉は輪っか。わ、わ、わ、わ、輪が三つ。





 

 古すぎましたか? 

 言葉は石鹸、言葉は洗剤、言葉は洗濯、どれも言えているような気がするけど、またいつかにしよう。


        *

       

 リング。これも輪。ボクシングやレスリングのリングが浮かびました。あと、エンゲージリング、これは縁がない。あ、そうだ、縁だ。ご縁の縁。輪とか鎖とも重なるイメージ。連想ゲームは楽しい。思いがけない発見がある。縁、円、園とさらに飛ぶ。継国縁壱に円広志に園まり――。お分かりになりますでしょうか? これも何かのご縁ということで、お許し願います。



 怖かったですね。


        *


 縁。


 言葉は縁。

 言葉はご縁。言えている。

 言葉は誤嚥、なんて逸れてはいけない。間違って飲み込むんでしょ? 何だか言えてるように思えてくる……。


 言葉は緑、なんてやるのもだめだめ。←「ん?」とお思いの方、よく漢字を見てください。目をいたわりましょう。いま、私も目薬を使いました。


        *


 緑。「ん?」ですよね、でもこういうアクシデントも大切にしたいのです。「縁」が「緑」に、ずれる。いつの間にか入れ替わっている。ちょっとしたアクシデント。言葉のジャズではアクシデント、偶然、事故、お漏らし(accidentにはこんな意味もあります)を尊重したいと思います。


 いま思い出しましたが、蓮實重彦氏の『大江健三郎論』では「懐」と「壊」という文字をめぐってスリリングな批評を展開していた記憶があります。もうその本がもはや手元にないので曖昧な記憶なのですが、「蓮實重彦 大江健三郎 懐 壊」でネット検索すると、とある大学の修士論文にこのことが触れられているらしいと知りました。こういう表層的な乗りってとても好きなんです。滑っていくのです。深く降りていくのではなくて。ジャズやアドリブに向いている乗りではないでしょうか。


 言葉は懐。これで記事を書きたいけど、またいつか。

 言葉は壊。これも、魅力的なテーマ。また会う日まで、会える時まで。



大江健三郎論

文芸批評の新地平。大江健三郎の全作品をとおして、理不尽な刺激として存在する数詞の奔流と、その彼方に出現する〈零〉とは、いっ

www.kinokuniya.co.jp

ちくま文庫 表層批評宣言

〈批評〉とは存在が過剰なる何ものかと荒唐無稽な遭遇を演じる徹底して表層的な体験にほかならない——どこまでも不敵な哄笑を秘め

www.kinokuniya.co.jp



 言葉は緑。言葉はグリーンというとイメージがぱっと変わります。なかなか興味深い。

 言葉はグリーン。グリーン、green、GReeeeN。こういう文字の遊びが好きです。Official髭男dismやNiziUなんて表記もお遊び心があってじつに面白い。元気があって結構なことです。結構毛だらけ猫灰だらけ。

 言葉はブルー。信号機の緑色をなぜ青信号と言うのか。こんな疑問を思い出しました。なぜなのでしょう、ねえねえ、チコちゃん。アドリブではできるだけ検索を避けたいので、この謎は謎のままにしておきましょう。

 言葉はレッド(ルージュ)。

 言葉はホワイト(ブラン)。

 言葉はトリコロール。一気に来ました。三色旗を見るとわくわくします。フランス語の教科書や参考書にやたらデザインとして使われていたのを思い出します。わくわくしながら一生懸命にフランス語を勉強していた時期があったのです。三色旗と言えば、この歌です。



 改めて歌詞を読むと、恐ろしい歌ですね。自由は勝ち取るものだという歴史的な事実を目の当たりにした気分になります。これに劣らないくらい、中国の国歌もすごいです。あ、きな臭くなりそう。ストップします。



 この動画はレアですね。↑ ド・ゴール将軍ですよ。後の大統領。この際、動画でアドリブ行きましょう。ド・ゴール大統領と言えば……。



 映画「ジャッカルの日」のラストシーンです。暗殺物の映画が好きです。「タクシードライバー」も良かった。怖い動画はやめて、音楽行きましょう。フランス国歌に戻ります。



 うろ覚えでしたが、やはりこの曲の出だしにフランス国歌が使われていたのですね。難聴でよく聞こえないので、念のためにネット検索して確かめてみると、この曲は引用から成り立っているとウィキペディアに書いてありました。⇒「愛こそはすべて」


 この曲は引用の織物だということでしょうね。音楽は聞き取れませんが、記憶が間違っていなくてうれしいです。おまけに引用の織物という大好きな言葉が出てきたところで、今回のアドリブはおしまいにします。 


ひとでなしの猫 宮川淳 『引用の織物』

サイケデリック鬱ワールド◆INSIDE OUTSIDERS◆バートルビーの子どもたち

leonocusto.blog66.fc2.com


        *


 何の脈絡もない、出たとこ勝負の記事でした。


 ちょっと気を緩めると、こういうとりとめのない連想が頭の中で起こります。最近、特に……。記憶の断片の連鎖、無意識と意識の織りなすまだら模様、イメージのしりとり、不意にやって来る何かや誰か。「初めまして」、「お久しぶりです」、「えーと、どちら様でしょうか?」。「ないすとぅみーちゅー」、「ろんぐたいむのーしー」、「Have we met before?」。自分だけの連想ゲーム。愛しい出演者たち。偶然なのでしょうが、必然だと思いたくなります。夢や夢うつつの中ではすべてが肯定されます。異議申し立てなんかありません。


 死に際に走馬灯を見るとか、頭をよぎるとか言いますね。過去の出来事が時系列に映し出されるなんて何かに書いてあった記憶があります。違ったかな? 時系列じゃなかったかな? 個人的には、人生の復習なんかしたくないです。ましてABC……なんて順番は不要です。脈絡を欠いた連想ゲームで一向にかまわないので、無に入るまでの間に楽しませてほしいです。最期のお願いですから。


        *


 夢うつつや夢で見るとりとめのない断片的な映像の連鎖は死に際のリハーサルなのでしょうか。


 あーむ。


 いまのはあくびなのですが、あくびは「生きて死ぬ」という行為のレビュー(復習)であり、リハーサル(予行)だという気がします。


 人間は口を開けて「a」と言ってうまれて、「m」または「n」の口をして息を吐いてなくなる。そんな思いにとらわれます。本当のところは知りません。他人様が生まれる場にも、死ぬ場にも立ち会った経験がないからです。


 人間一般どころか、自分自身に関しても、どうなのかは知り得ません。なにしろ、生まれた時の記憶はありません。これから先、いつかは死ぬのでしょうが、その時に自分がどんな口をして死ぬのかは知るよしもありません。


 それでいいのでしょう。誰もがそうなのでしょう。あーむ。あうむ。おーむ。あうん。AUM。OM。言葉はあーむ。言葉はあうん。


 言葉はジャズ。

 言葉は即興。

 言葉はアドリブ。


        *


 今回のキャスト(サイコロを振って出た言葉の出演者たち):


 言葉は環。

 言葉は円環。

 言葉は輪。

 言葉は輪廻。

 言葉は連鎖。

 言葉は連鎖反応。

 言葉は化学反応。

 言葉は存在の大いなる連鎖。

 言葉は鎖。

 言葉は腐れ縁。

 言葉は輪っか。

 言葉は石鹸。

 言葉は洗剤。

 言葉は洗濯。

 言葉はリング。

 言葉は縁。

 言葉はご縁。

 言葉は誤嚥。

 言葉は緑。

 言葉はグリーン。

 言葉はブルー。

 言葉はレッド(ルージュ)。

 言葉はホワイト(ブラン)。

 言葉はトリコロール。

 言葉はあーむ。

 言葉はあうん。



 ゲストスター(また会う日まで):

 言葉は懐。

 言葉は壊。

 

 これも言えてますね。

 みんな、よく頑張ってくれました。感謝。


 私のジャズ。

 言葉は魔法。



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