言葉はバレエ(言葉は魔法・第4回)

2021/04/23 08:06


 言葉は、魔法。


 言葉は、           魔法

 言葉は           魔法

 言葉は            魔法

 言葉は          魔法

 言葉は         魔法

 言葉は        魔法

 言葉は       魔法

 言葉は      魔法

 言葉は     魔法

 言葉は    魔法

 言葉は   魔法

 言葉は  魔法

 言葉は 魔法     

 言葉 は 魔法

 言 葉 は 魔 法

 言

 葉

 は

 魔

 法

 言

  葉

   は

    魔

     法

 言葉は魔法


  葉 魔

 言 は 法

  葉 魔 


 noteはテキスト中心というか記事を載せる画面がシンプルなので、あまり遊べませんが、器用な人は素人が思いつかないような斬新なデザインの記事を投稿していらっしゃいます。いわゆるタイポグラフィを応用して楽しませてくれているわけですね。


 タイポグラフィでは言葉の意味だけではなく、文字としての形が生かされ、生きるわけです。生き物のように。あるいはバレエのように。身体のように。


 言葉は形。

 言葉は素材。

 言葉は材料。

 言葉はオブジェ。

 言葉は動き。

 言葉は生き物。

 文字は生き物。

 言葉はダンス。

 文字はダンス。

 言葉はバレエ。

 文字はバレエ。

 言葉は身体。

 文字は身体。


        *


 学生時代には杉浦康平さんの装幀やデザインが本屋さんに満ちあふれていました(どれも高価でした)。圧巻は、雑誌「エピステーメー」のデザインです。


エピステーメー | クロニクルズ | 書籍 | 朝日出版社

朝日出版社の総合トップページです。CNNEE・語学・書籍・デジタルコンテンツをご紹介しています。

www.asahipress.com

 難しい論考が満載の雑誌でした。私は買い集めて次第に模様が明らかになっていく背表紙を眺めていただけです。それだけで十分に幸せでした。せっかく集めた雑誌もいまはありませんが、それはそれでいいです。こうやって、また会えた喜びを噛みしめたいと思います。文字通り有り難いことです。


 本が売れないと言われるようになって久しいですね。現在の出版界は大不況下にあり、斬新かつ贅沢な本作りは許されない時代になっているようですね。上のような雑誌や本は新刊では見当たりません。寂しい限りです。


 noteでこんな記事を見つけました。白江幸司さんがお作りなったこの記事に引用されている、雑誌「エピステーメー」に収録されていた論文やエッセイのタイトルを見るだけでわくわくします。





        *


 雑誌「エピステーメー」のデザインを手掛けた杉浦康平さんのお仕事は多岐にわたりますが、ブックデザインでの趣向には度肝を抜かれる作品があります。


杉浦康平 - Wikipedia

ja.wikipedia.org


 以下の動画のシリーズは他にもあるので、ご興味のある方はあとで検索なさり、ごゆっくりお楽しみください。見ていて飽きませんよ。






 この本も持っていました。『人間人形時代』、編集したのは松岡正剛氏。『少年愛の美学』を書いた稲垣足穂のエッセイ集です。




 穴のあいた本ということで、当時話題になりました。足穂にとって、「穴」(意味深ですが)と「宇宙」はつながっているのです。それが書物という具体的な形になっているのが感動的です。この本の穴を実際に覗いてみた時の記憶がよみがえってきました。稲垣足穂、杉浦康平、松岡正剛――、これはどう考えても必然です。


 書物は生き物。

 書物は夢を見る。

 書物は書物の夢を見る。


 言葉は書物。

 言葉は夢の書物。

 言葉は書物の見る夢。


ひとでなしの猫 宮川淳 『紙片と眼差とのあいだに』

サイケデリック鬱ワールド◆INSIDE OUTSIDERS◆バートルビーの子どもたち

leonocusto.blog66.fc2.com

ひとでなしの猫 宮川淳 『引用の織物』

サイケデリック鬱ワールド◆INSIDE OUTSIDERS◆バートルビーの子どもたち

leonocusto.blog66.fc2.com

 あ、マラルメ師がやってきました。言葉にまつわる偶然と必然についての思索と詩作と試作――。私にとっては言葉であり文字でありイメージでしかない存在ですが、ときどき来てくれて言葉を投げてくれるのです。


ステファヌ・マラルメ - Wikipedia

ja.wikipedia.org

 一緒にサイコロを振るのです。師はとてもお茶目なおじさんなのです。大詩人に妙なイメージを勝手につけていますが、それほど私にとって大切な存在だということでご勘弁願います。


 マラルメの書物。

 マラルメの夢見た書物。


 詩作、思索、試作、施策。


水声文庫 マラルメの“書物”

自然主義的、リアリズム的文学観を根本的に刷新し、現代文学への途を切り開いた詩人が、その文学的出発から死の床に至るまで構想し

www.kinokuniya.co.jp

筑摩書房 マラルメ全集 全5巻

筑摩書房のウェブサイト。『マラルメ全集 全5巻』を紹介するページ

www.chikumashobo.co.jp

 『骰子一擲』 ←※松岡正剛氏の卓抜なマラルメ論です。松岡氏もマラルメから多大な霊感を受けた方です。


 『賽の一振り』

 『骰子一擲』


 なんとマラルメに扮した俳優が、マラルメの作品について語っている動画を見つけたので以下に紹介します。



 動画の24:28あたりから、マラルメの Un Coup de dés (骰子一擲)という詩が出てくるので、その斬新なレイアウトに注目してください。そこを見るだけで結構です。この詩は、雑誌に掲載されたのが1897年、単行本となったのが1914年だそうですから、その時期にこんな「前衛的」な作品をものしたのですから、すごいと思います。


        *


 マラルメの詩における斬新なレイアウトで連想するのは、ローレンス・スターン作の『トリストラム・シャンディ』です。真っ白なページ、真っ黒なページ、大理石模様のページでよく知られている長編小説です。


トリストラム・シャンディ - Wikipedia

ja.wikipedia.org

岩波文庫 トリストラム・シャンディ 〈上〉 (改版)

電子書籍ストアKinoppy、本や雑誌やコミックのお求めは、紀伊國屋書店ウェブストア! 1927年創業で全国主要都市や海外

www.kinokuniya.co.jp

 ブックデザインとタイポグラフィという点からしても、独創的かつ創意にあふれた作品というべきでしょう。1759年から1767年にかけて出版されたという、この小説の比類のない新しさと奇妙さについては以下の解説がとても詳しいです。作品に突然出てくる変な曲線についても、触れてあります。


夏目漱石『トリストラム、シヤンデー』

www1.gifu-u.ac.jp

 脱線と逸脱だらけで物語が進むこの長い長い作品は、私の愛読書のひとつなのですが、正直言って全体を読み通したことはありません。読み通した人はあまりいないと思いますし、読み通す必要もないでしょう。



 とはいえ、確実に読み通した日本人をひとりだけ知っています。朱牟田夏雄さんです。この小説の邦訳者ですから、当たり前ですね。それにしても、個人訳とは、すごすぎです。プルースト作の長い長い『失われた時を求めて』よりも読み通した人は少ないのではないでしょうか。


(※以下の動画はとても分かりやすく『トリストラム・シャンディ』という小説を解説しています。日本語の字幕が有り難いです。)



『トリストラム・シャンディ』から、私は常にインスピレーションをいただいています。とても感謝しています。十二年ほど前に約一年間かけて書いた脱線だらけのブログ記事「うつせみのあなたに」(全11巻)は、私なりの『トリストラム・シャンディ』へのオマージュといえそうです。書き上げてから気がついたのですが、あれは小説なのです。小説では何を書いてもいいという意味での小説――。


星野廉 さんの公開書籍一覧|パブー|電子書籍作成・販売プラットフォーム

puboo.jp


        *





 上の動画を見ていると、ため息が出ます。息を飲む瞬間の連続です。


 言葉は   生き物。

 文字は       生き物。

 活字は   生き物。

 言葉は    息もの。

 文字は   息もの。

 文字は     動き。

 言葉は   呼吸。

 言葉は   息。

 言葉は   命。

 言葉は 息吹。

 言葉はanima。

 言葉はanimal。

 言葉はanimus。

 言葉はanimism。

 言葉はanimation。


 ジャズのアドリブのように、ぽんぽん言葉を投げていく。骰子を振って遊ぶ。ジャズのように言葉をつづりたい。文章をつづりたい。言葉は踊る。


 言葉は遊戯。

 言葉は踊る。

 言葉はバレエ。


 言葉は書物。

 言葉は夢の書物。

 言葉は書物の見る夢。


 言葉は魔法。







【※この記事は「言葉は魔法」というマガジンに収めます。】


 *ヘッダーにはメザニンさんのイラストをお借りしました。




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