おまじないを旋律に乗せる
星野廉
2021/05/30 07:56
おまじない・お呪い、まじなう・呪う、のろう・呪う、のろい・呪い・いわう・祝う、いわい・祝い。
まじなう、呪う、いわう、祝う。
意味の分からない言葉、意味を知らない言葉。
聞いていて動かされる言葉、動く言葉、蠢く言葉。言葉は動く、言葉は蠢く。
*
おまじないのように聞いていた歌があります。幼かったころから、少年時代、青年時代、中年時代、そして老年期という流れの中で、つねにありましたし、いまもあります。生まれつきぼーっとしている性格なので、意味が分からずに聞いていて、その意味を積極的に知ろうともしないで生きてきました。
マナマナ
いまでも、ときどき頭(あるいは耳)の中で鳴ることがあります。子どものころに聞いた記憶があるのですが、それは以下の曲だったようです。
Mah Nà Mah Nà 1968
これは記憶があります。セサミストリートで見ました。
マナマナ(Mahna Mahna)
当分の間、このマナマナが頭の中で鳴ると思います。うれしいような、うざいような、こわいような……。
何だか妖しげで怪しげな気配がして匂うなあと思ったのですが、つい誘惑に負けて「まな」を辞書と百科事典で引いてしまいました。ネット検索もしてしまいました。
小賢しげな語源など無視した、時空を超えた「まな・マナ」という音(おん)の多義性――。こわいです。
まなの意味 - goo国語辞書
まなとは。意味や解説、類語。1 《仮名に対して真 (まこと) の字の意》漢字。まんな。「俗に稗史 (よみほん) と呼ならわ
dictionary.goo.ne.jp
マナ - Wikipedia
ja.wikipedia.org
まなの意味 - 古文辞書 - Weblio古語辞典
まなの意味。・感動詞だめ。するな。▽禁止・制止を表す。出典枕草子 宮にはじめてまゐりたるころ「女房の放つを、『まな』と仰せ
kobun.weblio.jp
とても勉強になりました。
◆
ケセラセラ……
これは英語でも日本語のカバーでも何度も聞いてきました。子どものころには意味は分かりませんでしたが、本や雑誌や新聞なんかを読んでいるうちに、「人生、そんなものよ」とか「仕方ない」みたいな意味じゃないかと思い始めました。
カバーではその意味がちゃんと歌われているのに、気にも留めませんでした。そのうち、正確な意味を知りました。いつ、どうやって知ったのかは覚えていません。
こういう言葉とかフレーズを、個人的に「おなじまい」と呼んでいます。私は不思議とか謎とか曖昧とかが好きで、それをはっきりさせたくない人間なのです。いずれにせよ、だらしないですね。でも、こういう自分と長く付き合ってきたので、いまさら更生してもらおうとは考えていません。
そんなわけで、この記事では「おまじない」の意味をなるべくはっきりさせないままにしておきます。世の中には、勉強が好きだったり、物事をはっきりさせたい方が多いことはもちろん知っています。ですので、そういう方向けに、動画下のタイトルにリンクを張っておきますので、ぜひご利用ください。
あらためて聞くといい曲ですね。歌詞もなかなかいい。人生について諭された気分になります。
ケ・セラ・セラ ペギー葉山 1956
英語の歌詞も語呂がよくて、発音および発声練習になりそうです。ペギー葉山さんといい、ドリス・デイといい、歌がうまくて声がじつによく出ますね。この二人がますます好きになりました。
Que Sera, Sera (Whatever Will Be, Will Be) Doris Day 1956
◆
マナマナといい、ケ・セラ・セラといい、南欧の言語、つまりもともとラテン語から来た言葉であったり、おまじないであったりするようです。その特徴として、子音と母音が交替で並ぶので語呂がいいですね。英語の中に混じるとまた独特の響きを放ちます。
「あいうえお表」を見ると一目瞭然ですが、日本語でも子音と母音でセットになった音が大半を占めます。その日本語にマナマナとかケセラセラというような意味不明の子音と母音の連なりが混じると、呪術効果が増すように感じられます。
おまじない・お呪い、まじなう・呪う、のろう・呪う、のろい・呪い・いわう・祝う、いわい・祝い――。こう並べると、尋常ではない雰囲気を私は感じます。はっきり言って、怖いのです。
のりと・祝詞とか経文をとなえる・唱える行為には何かがありそうです。言霊が怖いので、今回はこれ以上は深入りしません。
呪術、呪い・まじない、魔術・マジック・magic、マジ・magie(フランス語です、マジな話が)、まじもの・蠱物。
この符合(※ふごう)、符号(※ふごう)、付合(※つけあい)は、只事ではない。「まじ」めな話が……。
*
音楽には疎くて蘊蓄が似合わないので、曲についての背景や解説は今回もしませんが、今回は文章が長くなる予感があります。
うざいなあとお思いの方は、どうか文章を読むのは省略して、曲の動画だけを視聴してください。また、中途難聴者なので字幕のある動画を選びますが、ご了承ください。
ここに集めた曲を楽しんでいただくことが、最大の目的なのです。
◆
おまじないのように聞こえた歌は、日本語の歌でもあります。私が大学生の時に聞いた曲で、ぶったまげた歌詞が出てくるのがこれです。
ニッチもサッチも……
ここだけのインパクトが強すぎて、他の部分はぜんぜん頭に入って来ないのです。今回あらためて歌詞を見て、そういう内容だったのかと謎が解けましたが、謎や不思議をそのままにしておきたい私は、ブルブルっと頭を振って記憶を追い出しました。
以下の動画ですが、あのゴムベルトをおもむろに用意する辺りから、目が釘付けになります。何という振りなのでしょう。
とっても不可解でシュールです。なんで?なんでなの?という気持ちを抑えるのに苦労します。これだけ印象に残っているのですから、文句なしに名曲だと思います。
ブルドッグ フォーリーブス 1977 作詞・伊藤アキラ 作曲・戸倉俊一
◆
うさぎおいしかのやま
こぶなつりしかのかわ
ゆめはいまもめぐりて
わすれがたきふるさと
(中略)
冒頭で見たのはひらがなばかりの歌詞ですが、子どもにとっては意味は分からないし、べつに分かろうともしていないわけですから、ただ音だけで覚えている。これは、まさに「ひらがな」で頭に入っているようなものです。つまり、音だけ。ひらがなで歌っているようなものです。本当は、そのひらがなという文字さえない。音だけ。聴いて覚えたのですから。譜面や歌詞カードを見ながら覚えたのではない。
音だけで覚えている言葉。
音だけ。
言葉は音。
言葉は文字のない音。
もともと言葉は無文字だったはずですね。個人としての人にとっても、初めはそうであったはずです。
(拙文「音、音楽、旋律のように聞こえる言葉(言葉は魔法・第9回)」より引用)
◆
イエローサブマリン、イエローサブマリン
英語を習う前だった私には、「おまじない」の不思議な言葉以外のなにものでもありませんでした。誰かに黄色い潜水艦という意味だと教えてもらいました。でも、黄色い潜水艦って何だろう? 謎でした。
この曲は、小学生から中学生のころにさかんに聞きました。ビートルズがナンセンス好きなのは薄々知っていたので、おふざけなんだなあとは思いましたが、聞くたびに頭の中で荒唐無稽な映像が浮かんで、うなされました。
英国でナンセンスと言えば、「マザー・グーズ」ですね。英国および米国では、童謡として親しまれているそうですから、ビートルズのメンバーたちの体にもその詩やメロディーが染みこんでいるのではないでしょうか。
改めていま聞くと単調な旋律の繰り返しが、呪術的効果を盛り上げている気がします。
この「イエローサブマリン」という曲は、メロディーが何だか変わっているというか妙なノリですね。英語の歌なのに、英語っぽくなくて、日本語の演歌とか民謡っぽいこぶしみたいなところがあると感じていたのです。
盆踊りみたいな振りで踊ったら合うのではないか……。後に「イエロー・サブマリン音頭」が出て、ああ、これだと納得しました。やっぱり、このメロディーは民謡にすれば日本語の歌詞にぴったり合うなあ、と。
たしか、アニメ映画を映画館へ見に行ったような気がするのですけど、よくは覚えていません。
歌詞を見てみましょう。人を食った感じですね。
イエロー・サブマリン(Yellow Submarine)1966 The Beatles
以下の動画を見ると、アニメ映画「イエロー・サブマリン」は英国で社会現象になったみたいですね。
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1966年の黄色い潜水艦は、1982年に「イエロー・サブマリン音頭」という名で、新たな「おまじない」として復活し、私の前に突如として現われたのでした。
何だ、これは! めちゃくちゃ、ノリがいいではないか! 最初は分からなかったのです。あの曲の生まれ変わりとは。まったく別物だと思っていました。でも、既視感はあったのです。どこかで聞いたような感じがするけど。
途中で気がついて、またびっくりしました。あれだ!
とにかく楽しい歌ですね。
以下の動画は、資料としても貴重ではないでしょうか。興味深いエピソードが語られていました。動画の下のタイトルにもウィキペディアの解説がリンクされているのでお読みください。へえーっと何度も声を上げてしまいました。話に出てくる顔ぶれが豪華なのです。
イエロー・サブマリン音頭 金沢明子 プロデュース・大瀧詠一
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はっぱふみふみ
大橋巨泉さん出演のCMです。1969年。中学生から高校生にかけての時期でした。まわりの生徒たちが盛んに真似ていました。私は見ていただけです。恥ずかしかったのですが、たぶん反抗期だったのでしょう。
これは、意味不明なままに、ずっと引きずってきましたが、最近になってネット検索をしたり、YouTubeで動画を見て、「おまじない」度が減少するかに思えたのですが、相変わらず、「おまじない」のままでいるので、うれしいです。めちゃくちゃ好きです、こういうナンセンス。
検索中に、この「おまじない」の意味を解説(種明かし)しているサイトを見つけましたが、見なかったことにします。
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フニクリ フニクラ
これはよく聞きました。いろんなところで。運動会でもかかっていた記憶があります。テレビのCMでも、何種類か聞きました。みんなの歌でも聞いたような。
これ、何ですか? どういう意味なのか、さっぱり分からないまま、歳を取りました。ウィキペディアの解説を読みましたが、いまひとつ分からないので、ほっとしています。これは謎のまま、おまじないのまま、墓場に持って行けそうです。楽しみが増えました。
すごく声量のあるお兄さんが歌い上げている動画を選びました。イタリアのものらしい原曲は割愛します。
フニクリ・フニクラ
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うえをむういてあるこおほほ んなみだが……
大好きです。永六輔さんの詩はいいですね。シンプルな言葉で素朴な感情をうたう。それがある意味深い。驚くのは、大和言葉(和語)しか使われていないことです。大和言葉大好き人間の私は感動してしまいます。
だいたいにおいて日本語の歌詞には大和言葉がきわめて多く使われています。歌謡曲には詳しくないので分かりませんが、そういうことになっているのでしょう。作詞講座などでは、大和言葉をベースに作詞しなさいと教えているとしか思えません。
漢語系の言葉だと、同音異義語が多くて聞き間違いやすいし、頭で理解するようなところがあって、大和言葉のようにお腹に来るというか体に染み入る語感に乏しいのかなあと勝手に思っています。
「あの人妊娠したんだって」とか「ご懐妊です」よりも、「あの人赤ちゃんができたんだって」とか「おめでたです」のほうが、ぴんと来ます。前者だと「は?」と一瞬理解が遅れるのに対し、後者だとすっと入ってきます。個人の感想ですけど。
あと日本語の歌詞には英語や英語もどきも多いですね。これは漢語系の言葉と違って、同音異義語の心配は要らないし、洒落た感じを醸しだすのに便利なツールだという気がします。だから、使うのでしょうね。たぶん、ですけど。
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話を戻します。
うえをむういてあるこおほほ んなみだが……
どうしてこれがおまじないかと言うと、この日本語のまま、ヨーロッパ、英米だけでなく、世界中で聞かれ親しまれたからなのです。日本語を知らない人たちの間で聞かれたということですね。中には何度も聞いているうちに部分的にでも口ずさんだ人がいるにちがいありません。
まさにおまじないです。意味が分からないままに聞かれたのです。極端に言うと、マナマナと同じ。すごくありません? どれだけ、すごかったかは、動画の下のタイトルにウィキペディアの解説のリンクがあるので、ご覧になってください。音楽に詳しくない私には蘊蓄は似合わないので、丸投げします。
いまは竹内まりあさんの Plastic Love が、日本語のまま(つまり、私の言う「おまじない」として)世界各地で親しまれたり歌われていると聞きます。素晴らしいですね。
上を向いて歩こう 坂本九 作詞・永六輔 作曲・中村八大
竹内まりあさんの歌ですが、試しに字幕のローマ字を見つめて視聴してみてください。
異化が働いて、海外の人たちがこの歌を聞いて味わう「おまじない」感とは違った「おまじない」感を味わえると思います。
Plastic Love Mariya Takeuchi
◆
オー シャンゼリゼー、オー シャンゼリゼー
AuxAux Champs-Élysées, aux Champs-Élysées
え、こんなんだったの? 何だか複雑。え?「おお、シャンゼリゼ!」と叫んでいるのではなくて「シャンゼリゼ通りにて」ですって? 「おー」が「にて」ですって? そんなの知らないわ。嘘に決まってる。「おー」は「おお」でしょ? 冗談は顔だけにしてちょうだいな。
(拙文「音、音楽、旋律のように聞こえる言葉(言葉は魔法・第9回)」より引用)
◆
リリー・マルレーン
この歌は、ドイツ語です。第二次世界大戦時に、敵国ドイツの歌がなぜ、連合国兵士によって、および英米でも聞かれたかについては、ややこしい事情があります。詳しいことは、動画の下にあるタイトルにリンクがあり、また資料を貼っておきましたので、ご覧ください。
歌詞の意味は分かりません。でも、好きなのです。意味が分からないという、おまじない以上に、私の心を打ちます。
リリー・マルレーン(Lili Marleen) マレーネ・ディートリヒ(ディートリッヒ)
マレーネ・ディートリヒの「リリー・マルレーン」が日本で発売された日
1975年(昭和50年)6月15日、ベルリン出身のハリウッド女優マレーネ・ディートリヒが歌った「リリー・マルレーン」(ビク
www.tapthepop.net
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同名の映画の一部です。何となく、状況がつかめると思います。
ぜひ、あなたにご覧いただきたいのです。意味が分からなくても、そしてそれがたとえ敵のものであっても、人を感動させる言葉と歌があるのです。
映画「リリー・マルレーン」の詳しい解説です。
リリー・マルレーン : 作品情報 - 映画.com
リリー・マルレーンの作品情報。上映スケジュール、映画レビュー、予告動画。第2次大戦下のヨーロッパを舞台に愛に生き歌に生きた
eiga.com
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オブ・ラ・ディ オブ・ラ・ダ
私史上最強のおまじないです。意味は不明。でも大好き。死ぬまで、意味不。それでいい。不思議は不思議なまま、謎は謎のままでいいのです。
曲、いきます。
オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ(Ob-La-Di, Ob-La-Da) The Beatles
◆
「歌えるけど意味は分からない」、「聞こえているけど理解して聴いていない」、「読めるには読めるのだけど意味があいまいだ」という感覚。
こういうことは別に特別な体験ではありません。誰もが経験してきたし、いまも日々経験しているのです。
子どものころに、次のような経験をしたことがありませんか?
夜、床につく。目がさえて眠れない。近くで、あるいは、隣室から大人たちの声が聞こえてくる。耳をそばだてると、話の内容がはっきりと分かる。
誰かの噂話をしている――。その誰かは、知っている人だ。へえー、あの人、そんなことやっているんだ。あんな顔をして。ふーん。えーっ、すごい。
そのうち、眠気が訪れる。噂話には興味があるけれど、どうでもよくなってくる。
聞いている。聞こえている。聞いている。聞こえている。
そのうちに聞こえてくるのが、言葉ではなく、音、音楽、旋律のように感じられてくる。そして意識が薄れる。眠りに入る。
そうしたことが、ありませんでしたか? 今でも、同様の経験ができるはずです。
音、音楽、旋律のように聞こえる言葉――。
(拙文「音、音楽、旋律のように聞こえる言葉(言葉は魔法・第9回)」より引用)
◆
私の幼いころには、世界はおまじないに満ちあふれていました。
不思議と謎だらけでした。
それだけ分からないこと知らないこと不思議なことだらけなのに、不安は覚えませんでした。ただわくわくしていたのです。毎日が、わくわくどきどきそわそわでした。
ラジオからはおまじないの歌が流れ、やがて出現したテレビからも、おまじないの歌と映像が流れてきました。
昭和30から40年代半ばのことです。
おまじないは、だんだんと消えていきました。それはそれでいいと思います。生きるとか、成長するとか、歳を取るというのは、そういうことなのですから。
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