【再】土地の名をうたう・洋楽編
星野廉
2021/05/08 07:44
曲にしやすい地名があるような気がします。発音しただけで、器用な人ならメロディーをつくってしまうくらい語呂がいいのです。いま頭にあるのはサンフランシスコ(San Francisco)です。
I Left My Heart in San Francisco(想い出のサンフランシスコ)Tony Bennett
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私は音楽には決して詳しくはありません。また中途難聴者なので、新しい歌の聞き取りに苦労するために、頭(耳かな?)の中でふいに出てくるのも、口ずさむのも、YouTubeでよく聞くのも、昔聞いた曲が圧倒的に多いのです。
San Francisco はもともとスペイン語だったせいか、母音と子音の並び方がリズミカルに響く気がします。メロディーに乗せやすいのかもしれません。
San Francisco (Be Sure to Wear Flowers in Your Hair)(花のサンフランシスコ) Scott McKenzie
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サンフランシスコ(San Francisco)、カリフォルニア(California)、と日本語式に発音しても十分に綺麗に響きますよね。語呂がいい。昔の歌は、はっきりと発音して歌いやすいです。
California Dreamin' (夢のカリフォルニア)The Mamas & the Papas
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バート・バカラック(Burt Bacharach)は歌詞に旋律を乗せるのが天才的にうまいと思います。歌詞の音にピッタリの音と音階を付けて仕上げている感じがします。音楽を知らない素人の個人的な感想ですけど。私は好きです。
Raindrops Keep Fallin' on My Head(雨にぬれても)なんて歌詞と旋律が奇跡のように合体していて最高です。曲自体が、降ってくる雨に擬態しているようにリズミカルだし。
サン・ホセ(San Jose)もスペイン語から来た土地の名前ですね。アメリカには、そうした地名がたくさんあります。地名は、その土地の歴史そのもの。英国だけでなく、フランスから来た地名もあるし、北欧から来た地名もあります。
Do You Know the Way to San Jose Dionne Warwick
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この記事では、とりとめもなく曲と文章を並べていくので、曲の動画はのちほど興味のあるものだけを視聴してください。
もちろん、動画を優先させて、とりとめのない文章は飛ばしていただいてけっこうです。
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懐かしい曲です。小学生か中学生の頃によくラジオで聞いた記憶があります。当時は何を言っているのか、さっぱり分かりませんでした。マサチューセッツ(Massachusetts)が、「まさ、中性」に聞こえて仕方ありませんでした(まさと呼ばれている男子が同じ学年にいたのです)。
そういう記憶って大切です。愛おしいのです。あとで考えると荒唐無稽なのですが、頭の中に刻まれている自分だけの大切なイメージなのです。おそらく死ぬまで、それが頭の中に残っている気がします。
マサチューセッツは、アメリカ先住民の言葉から来た地名なのですね。検索していたら、「マサチューセッツ族」という言葉と出会いました。こうした土地の名は、アメリカには数えきれないほどありそうです。
土地の名前は土地の精霊と結びついているのではないでしょうか。精霊たちはそこにずっといる。追い出したとしても、必ずもどってくる。そして人を歌にいざなう。人の口から出て、再び生きる。
Massachusetts 1967 Bee Gees
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音である言葉に音階なり旋律という形で音を付ける。音に音を付けて流れをつくる。音に音を乗せる。音に音をかぶせる。リズムにリズムをまとわせる。
素敵なことを考えたものですね。歌の始まりはどんなものだったのでしょう。鼻歌とか、叫びとか、うなりとか、つぶやきとか、節があるかないかみたいなものが、だんだんちゃんとした節になっていったのでしょうか。
アメリカの地名が続いたので、英国の地名の出てくる歌を聞いてみましょう。この歌の成立には思いがけない裏話があるのですね。私は歌の知識には疎くて、いろいろ引用して蘊蓄を傾ける柄でもありません。動画の下にリンクを貼り付けるだけにしておきます。丸投げをお許しください。
Manchester & Liverpool Pinky & The Fellas
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この歌はサイモンとガーファンクルバージョンだけしか知らなかったので、ウィキペディアの解説「スカボロー・フェア」を読んでびっくりしました。なかなか読みごたえがあります。
バラッドなんて、大学時代に習った言葉が出てきました。すっかり忘れていました。バラードとも関係ありますね。勉強になりました。でも、難しかったです。すぐに忘れそう。
慣れしたんでいた歌について、知らなかった背景やエピソードを知りたいと思う場合と、イメージを壊されたくないから知りたくないと退ける場合があります。この歌に関しては、素直に「そうなのか」と感心しました。
それにしても、綺麗な歌ですね。この歌詞にはこの旋律しかないみたいに感じるのは私だけでしょうか。
Parsley, sage, rosemary and thyme
何度か繰り返される、ハーブの名前を並べた部分が気が遠くなるほど美しい。これだけでも十分に詩ではないでしょうか。
Scarborough Fair Simon & Garfunkel
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アメリカの曲に戻ってきました。その名も、America 。アメリカの語源にも諸説があるようです。叙事詩のような歌詞ですね。ストーリーが頭の中で映像化されて泣けてきます。やはり、アメリカの風物が自分の中で自分なりに刷り込まれているのを感じざるを得ません。
アメリカの歌を聞き、アメリカのテレビドラマを見、アメリカの商品に憧れ、アメリカに留学したいと願っていた子ども時代から少年時代。「アメリカ」は自分にとって掛け替えのない土地であり、また土地の名前なのです。私だけしかいだいていない「アメリカ」にまつわるイメージが私の中に生き続けている。そんな気がします。「海外旅行」として訪ねた唯一の国もアメリカなのです。
再び、あの国を旅することはないでしょう。
土地の名。
土地の記憶、土地の名の記憶。
土地にまつわるイメージ、土地の名にまつわるイメージ。
America Simon & Garfunkel
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移民から成る国家、開拓民が切り開いた土地、先住民を追い出し追いつめた土地、広大な国土、過酷な自然、豊かな動植物たち、さまざまな気象や地形、実りや収穫の喜び、馬車や自動車や飛行機を使っての移動――。
アメリカに住む人たちの土地への思いは、日本に住む人たちのそれとは大きく異なる気がします。各土地の名の成立や、各土地の名にまつわるイメージも、日米ではかなり違っているのではないでしょうか。広い国ですから、一般論は禁物だとは思いますけど。
いや、日本だって、多種多様な地形と自然と風物があります。面積とか地理とか歴史という抽象は、土地に対する侮辱なのかもしれません。ややこしい話をしてごめんなさい。
生まれ育った土地への思いを歌った曲は、たとえそれが異国のものであっても、心を打ちますね。
Take Me Home, Country Roads (故郷へかえりたい) John Denver
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この歌も泣けます。邦題が「早く家へ帰りたい」。かつて故郷を離れていたころの自分にすっと心が飛びます。
Home, where my thought's escaping
Home, where my music's playing
Home, where my love lies waiting
home 、これだけでいい。homeとつぶやく、homeと口ずさむ、homeと叫ぶ、homeと節をつけて歌う、それだけでいい。
ふるさと、くに、いなか、さと、うち、いえ、と同じように特定の場所を指しているわけではないけれど、だからこそ、各人が自分だけの思いを重ねることができる。
土地の名。
土地の記憶、土地の名の記憶。
土地にまつわるイメージ、土地の名にまつわるイメージ。
土地の名をうたう。
土地の名は遠い記憶を呼び覚ます。魔法の言葉。
土地の名には土地の旋律が宿っているような気がします。土地の名は一つでも、その旋律は無数にあるのではないでしょうか。
Homeward Bound(早く家へ帰りたい) Simon & Garfunkel
*ヘッダーにはメザニンさんのイラストをお借りしました。
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